将来への投資:初乳の重要性
初乳管理は、子牛の健康維持に必要な要素と考えられてきました。しかし、酪農業における初乳の影響は子牛の健康のみに留まらず、それをはるかに超えたものとなります。初乳は免疫の発達にとって極めて重要なだけでなく、個体の成長と将来の生産性にも重大な影響を及ぼします。その重要性から、生産者は初乳管理に注力し、子牛に十分な量の良質な初乳を適切な時期に与えるようにしなければなりません。この初乳管理への投資は、生産者のビジネスの将来における収益性と成長の確保に役立つはずです。
子牛の免疫を理解する
産まれたばかりの子牛は免疫系がまだ完全には機能していません。そのため、新生子牛には免疫系が発達途上にある間の防御となってくれる免疫供給源が必要です。子牛は初乳に含まれる免疫グロブリンを吸収することによって免疫を受け取ります。免疫グロブリンは移行抗体とも呼ばれ、子牛の消化管から吸収されます。このプロセスは受動免疫輸送と呼ばれるものです。
受動免疫輸送が可能なのはごく短期間で、子牛の消化管が初乳の免疫グロブリンを吸収できるのは生後24時間に限られます。ただし、最も効率よく吸収されるのは生後4時間です。この最初の期間が経過すると吸収効率は低下し始め、やがて吸収可能期間が完全に終了します。
この吸収可能期間に初乳を十分に与えられなかった子牛は、受動免疫輸送不全となります。防御してくれる移行抗体を欠く子牛は疾患や感染症のリスクがより高くなり、結果的に受動免疫輸送不全は子牛の罹患率および死亡率の上昇につながります。しかし幸いなことに、受動免疫輸送不全のリスクを大きく減らして、子牛をより健康により強く育てることができる特徴的な戦略がいくつかあります。
乳牛の初乳管理
子牛に確実に初乳から十分な免疫を受け取らせるためには、初乳の質と量および与える時期に細心の注意を払わなければなりません。前に述べたとおり、子牛が免疫グロブリンを吸収できるのは、生後の非常に短い期間に限られます。この初乳吸収の期間は極めて重要ですが、受動免疫輸送不全の要因はそれだけではありません。免疫輸送を成功させるためには初乳の質と量が不可欠なのです。
初乳にはいくつかの免疫グロブリンが含まれていますが、その中で最も重要と考えられているのは免疫グロブリンG(IgG)で、全初乳量の約85%を占めています。そのため、初乳の質はIgG濃度によって決まります。酪農業では、少なくとも50 g/LのIgGを含む初乳が良質とみなされます。
この初乳の品質基準を確実に満たすために、生産者はIgGレベルを測定しなければなりません。これを行う助けになる計測器として、コロストロメーター(初乳計)とブリックス屈折計の2つがあります。コロストロメーターは温度計に非常によく似たガラス製の計測器です。これを初乳サンプルに入れて比重を測定します。この比重測定値から推算IgG濃度が得られます。比重測定値には温度が大きく影響するため、必ず室温で初乳を測定するように注意しなければなりません。
ブリックス屈折計は液体の中に存在する固形分のパーセントを測定します。初乳に使用した場合、ブリックス屈折計は初乳サンプルのIgG濃度を測定することになります。測定値をデジタル表示してくれる屈折計もあり、これなら読み取りにくいサンプルでの当て推量を排除して、より信頼できるデータを得ることができます。また、屈折計には乳汁の温度による測定値の誤差が少ないという利点もあります。
初乳の質を確認できたら、十分な量の初乳を子牛に摂取させなければなりません。子牛が必要とする初乳の量は、免疫達成に必要なIgGの総量によって決まります。新生子牛には生後4時間以内に少なくとも100 g、そして24時間という吸収可能時間が終了するまでにさらに100 gのIgGを与える必要があります。このことから、獣医師は1回あたり3~4 Lの良質な初乳を子牛に与えることを推奨しています。
初乳管理のもうひとつの重要な考慮点は、初乳を採取する時期です。母牛の初乳の質は分娩直後が最も高く、その後時間とともに徐々に低下して行きます。そのため、多くの生産者は分娩直後に初乳を採取します。採取するときは、初乳の清潔さと細菌汚染の最小化を確実にするための注意が必要です。採取した初乳は、直ちに子牛に与えるか、適切に保存します。不適切な保存は、子牛に多大な健康リスクをもたらすおそれのある細菌増殖につながります。
初乳はできるだけ早く冷蔵庫に入れ、冷蔵保存は24時間以内とします。それ以上長く保存しなければならないときは、清潔な気密性のあるプラスチックバッグに入れて冷凍すれば最長1年間保存することができます。凍結した初乳の解凍には特別な注意が必要です。初乳が高すぎる温度にさらされると、免疫を付与する免疫グロブリンが不活化されて、免疫効果が弱くなることがあるからです。
初乳管理への注目が増してきたことで、自前の初乳は信頼できないことや、子牛に十分与えられるだけの良質な初乳が不足していることに気づく農家が出てきています。このような状況では、初乳サプリメントや代用初乳が、信頼できるIgG供給源として有用なツールとなります。
初乳管理:将来への投資
初乳管理が子牛の罹患率と死亡率に多大な影響を与えることは広く理解されていますが、最近の研究はその影響がさらに広範囲に及ぶことを示唆しています。初乳は、免疫を構築する抗体に加えて、必須栄養素、ホルモン、成長因子も供給します。これらの因子は、子牛の増体とエネルギー利用能力を高めます。
コーネル大学は、日増体量(ADG)に対する初乳摂取の影響を評価する研究を実施しました。この研究では、与えられた初乳が多い子牛ほど成長率が高くなることが認められましたが、この効果は離乳前の期間に留まらず、初乳を多く与えられた子牛は離乳後も成長の増進を示し続けました。この研究の結果から、初乳が子牛の成長と発達にとって極めて重要な必須栄養素を供給することは明らかです。
この研究では、離乳前のADGがより大きかった子牛は、生涯に産出する乳量が多くなることも推算されました。初産泌乳期の乳量は、日増体量が1ポンド(約450 g)増えるごとに約1,500ポンド(約680 kg)増加すると考えられます。そして3産分の泌乳期を通じて考えると、日増体量1ポンド(約450 g)あたりの乳量の増加は6,000ポンド(約2,720 kg)に上ると推算されます。この成長率の増大による乳量の大きな増加は、生産者にとっては収益の拡大を意味します。
ただし、初期の栄養と初乳の管理が乳量と将来の収益に貢献するのは、成長率の増大だけではないと思われます。乳腺は子牛の発達における離乳前の段階での栄養摂取に非常に敏感に反応することが複数の研究によって示されています。また、ラクトクライン仮説は、乳腺の発達と将来の能力に影響する代謝の変化に、初乳に含まれるホルモンと成長因子が寄与しているという考えを提唱しています。初期の乳腺発達に寄与する因子および生涯乳量に対するその影響を完全に明らかにするためには、さらなる研究が必要ですが、上記の研究は初乳の影響が牛の生産寿命全体に及び得ることを浮き彫りにしています。
酪農経営に関して言えば、通常、生産量の増加は収益の増加と同義です。成長と生涯生産性に対する初乳の長期的影響を考えると、初乳管理は酪農経営の長期的収益性を確保するための重要ポイントであると言えます。初乳管理を向上させるための時間的および金銭的投資は、将来の何年にもわたる収益の増加として返ってきます。ですから、初乳への投資は将来の経営への投資とみなすべきなのです。
まとめ
産まれたばかりの子牛は免疫系がまだ完全には機能していないため、初乳が受動免疫輸送と将来の乳牛群の健康に極めて重要な役割を果たすことになります。良質で十分な量の初乳を適切な期間内に確実に供給できるようにするために、飼養管理には細心の注意を払わなければなりません。新しい研究が発表されるにつれ、将来の生産に対する初乳の影響がますます明らかになってきています。現場での初乳管理を向上させることで、生産者は将来の成功と収益の確保に向けて大きく前進することができるはずです。