豚のコクシジウム病の管理

コクシジウム病は豚の「健全な腸管」に対する深刻な脅威であり、あらゆる年齢の豚がこれに罹患します。Cystoisospora suisによって引き起こされるコクシジウム病は、特に子豚に多く見られます。実際、6~15日齢の子豚の下痢の最も多い原因となっています。もう少し成長した子豚ではEimeria属によるコクシジウム病も見られますが、これはどちらかといえば成豚に多い疾患です。

ご自身の養豚場でコクシジウム病問題が発生しているかどうか定かでないとしても、それはあなただけではありません。コクシジウム病は過小診断になりがちな豚病として広く知られていて、大多数の養豚場がある程度のコクシジウム病を抱えていると考えられています。2011年にカナダ・オンタリオ州で行われた調査では、70%の養豚場で子豚のコクシジウム病がある程度発生しており、調査した同腹子の26%が罹患していることが明らかになりました1。ご自身の養豚場でコクシジウム病の存在が確認されているかどうかにかかわらず、特にあらかじめコクシジウム感染対策を講じていない場合には、何らかの影響がすでに生じている可能性があると言って間違いないでしょう。


コクシジウム病の伝播

養豚場でコクシジウム病が広がるのを抑えるためには、これがどのように伝播するのかを理解しておくことが不可欠です。コクシジウムは糞便から経口的に感染し豚群に広がります。厚い壁を持つコクシジウムのオーシストは感染動物の糞便中に排泄され、経口的に摂取されます。中には母豚から排泄されたものもありますが、豚舎内の環境中に存在するオーシストの大多数は他の子豚によって排泄されたものです。

コクシジウムの高い感染力は、主としてそのオーシストの特徴によるものです。オーシストは、糞便中に排泄された当初は感染力がありませんが、およそ12時間以内に感染力を持ちます。これらのオーシストは、直ちに別の子豚に摂取されるか、そうでない場合は長期間にわたって環境中に存在し続けます。実際、コクシジウムのオーシストは10か月間近く環境中に存在し、新たな子豚に感染して疾病サイクルを永続させます。

摂取されたコクシジウムのオーシストは、急速に新たな感染を生み出します。新たに感染した子豚は5日も経たないうちにオーシストを排泄し始めるため、豚群内にコクシジウム病が急速に広がります。


コクシジウム病の影響

Cystoisospora suisは5~15日齢の子豚に最も多く見られ、そのピークは7~10日齢です。罹患した子豚はペースト状または水様性の下痢を示し、便の色は白色から黄色です。コクシジウムによる下痢便は、しばしば悪臭を放ちます。罹患した子豚は腸管から栄養素を吸収できないため、増体不良となります。脱水、元気消失、嘔吐が起こることもあります。

合併症のないコクシジウム病の致死率は通常高くありませんが、E. coliやロタウイルスに複合感染すると致死率が高まることがあります。また、軽症または不顕性の感染でも、子豚には多大な影響が生じる可能性があります。コクシジウム病は「腸管の健全性」を低下させて、豚が腸管を通じて吸収できる栄養素の量を減少させます。これは、発育速度の低下、飼料要求率(FCR)の悪化および離乳体重の低下を招きます。また、罹患した子豚では成長が遅れ、出荷時期の延長することがあるため、飼料摂取量と飼料コストが増大します。


診断と治療

コクシジウム病は通常、糞便の顕微鏡検査によって診断されます。場合によっては、剖検時に上皮の壊死を伴った腸管の肥厚に基づいて感染が診断されることもあります。抗原ELISAやPCR検査といった特殊な診断検査も利用可能です。

コクシジウム病の治療にはいくつかの選択肢があります。古くからある治療法はスルホンアミド系抗生物質(サルファ剤)の反復投与ですが(国内においては豚コクシジウム病に対してサルファ剤による治療は認められていません)、今ではほとんどの獣医師が、豚のコクシジウム病はバイコックス®(トルトラズリル)を予防投与することを推奨しています。この医薬品は、サルファ剤の反復投与よりも有効であるだけでなく便利でもあります2。トルトラズリルは、単回投与で下痢の発生率を低下させて環境中へのオーシストの排泄を減らし、罹患した子豚の増体を促すことができるからです。


コクシジウム病の予防

有効なコクシジウム病管理は、衛生とすべての感染豚の治療という2つの原則を中心にしたものになります。

分娩舎の環境汚染を減らすためには衛生が不可欠です。分娩舎は蒸気または承認された消毒薬を使って消毒する必要があります。環境中に存続しているかもしれない抵抗力の強いコクシジウムのオーシストに対処するには、これらの消毒方法しかないからです。また、コクシジウムのオーシストを分娩舎に持ち込まないために、すべての母豚を分娩舎に入れる前に清浄にする必要もあります。スタッフの立入りの管理とスタッフの靴やその他のすべての媒介物を確実に清浄にすることも、コクシジウム病の伝播を減らすのに役立ちます。

さらに、たとえ無症状であっても、すべての感染豚を治療することが大切です。感染した子豚は大量のオーシストを環境中に排泄し、それがこの感染症を豚群全体に急速に広めることになります。すべての感染豚を治療することにより、オーシストを排泄する豚の数を最小限に抑えて、分娩舎内の環境汚染レベルを低下させることができるのです。


結論

コクシジウム病は過小診断されている腸内寄生虫病で、たとえ不顕性感染であっても、子豚に対する影響は多大なものになります。感染した子豚は他の胃腸疾患に罹患しやすくなり、生産性も低下します。コクシジウム病の効果的な管理は、有効なバイオプロテクション(生物学的保護)戦略と有効な治療法をきちんと取り入れるかどうかにかかっています。

1Aliaga-Leyton, A., Webster, E., Friendship, R., Dewey, C., Vilaça, K., & Peregrine, A. S. (2011). An observational study on the prevalence and impact of Isospora suis in suckling piglets in southwestern Ontario, and risk factors for shedding oocysts. The Canadian veterinary journal = La revue veterinaire canadienne, 52(2), 184-188.

2Joachim, A., & Mundt, H. C. (2011). Efficacy of sulfonamides and Baycox® against Isospora suis in experimental infections of suckling piglets. Parasitology research, 109(6), 1653-1659. https://doi.org/10.1007/s00436-011-2438-9.

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